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仙台高等裁判所 昭和42年(ネ)299号 判決

主文

原判決中、承継前被控訴人蝦名竹次郎に関する部分を取り消す。

控訴人に対し、被控訴人蝦名サキは金三三万三、三三三円、被控訴人細川ゆきえ、蝦名清信、佐々木ユリヱ、安倍チヱ、蝦名泰枝子、蝦名清光は各一一万一、一一一円及びこれに対する昭和三九年六月二日より完済まで日歩五銭の割合による金員を支払え。

控訴人の被控訴人本堂堅蔵、本堂徳松に対する控訴はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用中、第一、二審を通じて控訴人と承継前の被控訴人亡蝦名竹次郎及び被控訴人蝦名サキ外六名(訴訟承継人)との間に生じた分は全部右被控訴人蝦名サキ外六名の負担とし、控訴人と被控訴人本堂堅蔵及び同本堂徳松との間に生じた控訴費用はいずれも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。控訴人に対し、被控訴人本堂堅蔵、本堂徳松は連帯して金一〇〇万円、被控訴人蝦名サキは金三三万三、三三三円、被控訴人細川ゆきえ、蝦名清信、佐々木ユリヱ、安倍チヱ、蝦名泰枝子、蝦名清光は各金一一万一、一一一円及びこれに対する昭和三九年六月二日より、同本堂堅蔵は金六八一万二、八三八円及び内金六二四万一、一四〇円に対する昭和三九年八月二二日より、内金五七万一、六九八円に対する昭和四〇年七月八日より完済まで、金七八八万七、〇〇〇円に対する昭和三九年四月一一日の一日分、金七八〇万七、〇〇〇円に対する同年四月一二日より同年八月三日まで金七二九万四、六七三円に対する同年八月四日より同年八月二一日までそれぞれ日歩金五銭の割合による金員を支払え、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。当事者間の事実上の陳述、法律上の主張及び証拠関係は、左記の点を付加するほか原判決の事実摘示と同じであるから、ここに引用する。

第一、控訴代理人において、

一、訴外工藤勇は承継前の被控訴人蝦名竹次郎(以下、単に竹次郎という)に対し、「信用保証協会から金五〇万円を借受けるについて保証人になつて貰いたい」といつて、真実は控訴組合から融資を受けるのであることを秘し、右趣旨で竹次郎から預り保管していた同人の印鑑をもつて、約束手形(甲第一号証)の振出欄、手形取引約定書(甲第二号証)連帯保証人欄に蝦名竹次郎と記入したうえその名下に押捺したものであるとしても、竹次郎は民法第一一〇条に則り表見代理の責任を免れることはできない。すなわち、特定の取引行為に関連して実印を交付することは一般に代理権の授受となると解せられているから、たとい工藤勇の右行為が代理権限をゆ越しているものであるとしても、控訴人においては、竹次郎から交付された実印を所持し、かつその印鑑証明書(甲第三号証)を持参したうえ工藤勇のなした前示行為に対して、同人が竹次郎の代理権があるものと信ずるについて正当の理由がある。

二、被控訴代理人の後記一、の主張事実は認める。

と述べ、

第二、被控訴代理人において

一、竹次郎は昭和四二年四月二三日死亡したので、被相続人の権利義務一切は相続人(妻、子六人)である被控訴人蝦名サキが三分の一、被控訴人細川ゆきゑ、蝦名清信、佐々木ユリヱ、安倍チヱ、蝦名泰枝子、蝦名清光が各六分の一の割合をもつて承継したものである。

二、控訴代理人の前記一、の主張に対し、竹次郎は工藤勇に欺されて実印を交付したものであり、印鑑証明書を交付した事実はなく、しかも、民法第一一〇条の「権限ありと信ずべき正当の理由がある」というには、そう信ずるについて過失がないことを意味するのであるから、いやしくも金融機関たる控訴組合においては、かかる重大な保証契約に際しては竹次郎に対しその意思の有無を確かめるべきであるのに、同人に会うこともしないし、あるいは一片の確認の問い合わせをしなかつた過失がある。

と述べた。

証拠(省略)

理由

第一、当裁判所も原判決と同じ理由で控訴人の被控訴人本堂堅蔵、本堂徳松に対する請求はいずれも失当として棄却すべきものと判断する。よつて、左記の点を付加訂正するほか原判決の理由記載(ただし、被告蝦名竹次郎に関する部分を除く。)をここに引用する。

一、原判決六枚目裏一行目中「乙第四号証の一」とある次に「、第五号証」と、同九枚目表二行目中「証言」とある次に「及び当審証人佐藤俊治の証言」とそれぞれそう入する。

二、甲第一八号証の六は、本堂堅蔵名下の印影が甲第一、二、六号証の同人名下の印影や第五、第七号証の四の印影と同一であることが認められるも、当審証人工藤勇、原審における被控訴人本堂堅蔵の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、甲第一八号証の六は、同号証の一、二と筆跡が同じであつて、司法書士対馬友七により筆記されたものと認められるので、被控訴人堅蔵が果してこれが作成に関与したかどうか疑わしいから、たやすく採用できないし、また、甲第一七号証の二、三、第一八号証の三、第一九号証の一、二の本堂堅蔵名義の印影は、いずれも同人所持の印鑑により顕出されたものではなく、工藤勇が前示偽造にかかる印鑑をもつて押捺されたものであり、これについて被控訴人堅蔵は関知していなかつたことが前掲証拠に照らしてうかがわれるから、右各号証も採用できないし、その他当審であらたに取調べた証拠をもつてしても前示判断を覆えすことはできない。

第二、控訴人の被控訴人蝦名サキ外六名(亡竹次郎の承継人)に対する請求について判断する。

竹次郎が昭和四二年四月二三日死亡し、被相続人の権利義務一切を相続人たる妻及び子である被控訴人蝦名サキ外六名がその主張のような割合をもつて承継したことは当事者間に争いがない。そこで、控訴組合が昭和三九年三月四日工藤勇に対し金一〇〇万円を貸付けるに当り、竹次郎が工藤勇の右債務につき自ら連帯保証をなしたものであるか、あるいは竹次郎が連帯保証をなすについて工藤勇にその代理権を授与したものであるか、もしくは工藤勇の行為が表見代理に当り、竹次郎が連帯保証責任を負担すべきであるかどうかについて検討してみるに、原審証人工藤勇(第一回)、細川富次郎の各証言、原審における被控訴人蝦名竹次郎の本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、工藤勇は昭和三九年三月ごろ、竹次郎に対し、真実は控訴組合から融資を受けるものであるのにこれを秘し「信用保証協会から金五〇万円を借りるについて保証人になつて貰いたい」と依頼し、これを承諾した竹次郎から同人の印鑑を預り保管中、右印鑑を使用して竹次郎の委任状を作成したうえ平内町役場から印鑑証明書(甲第三号証)の交付をうけ、同月四日控訴組合小湊支店において、約束手形(甲第一号証)の振出人欄に工藤勇、工藤マサ、本堂堅蔵、本堂徳松に続いて蝦名竹次郎の住所氏名を、手形取引約定書(甲第二号証)の連帯保証人欄に工藤マサ、本堂堅蔵、本堂徳松に続いて蝦名竹次郎の氏名をいずれも勇において記入したうえ、その各名下に右印鑑をもつて押捺したこと、そして、工藤勇は右甲第一ないし第三号証を控訴組合に提出して同組合より竹次郎らが連帯証人となつたものとして金一〇〇万円を弁済期同年六月一日、利息日歩二銭九厘、期限后の遅延損害金を日歩五銭と約定して借受けたことが認められる。右認定事実によると、竹次郎は工藤勇よりの信用保証協会から金五〇万円の借受けについて保証人となつて貰いたいとの依頼に対し、これを承諾し、その手続に必要な自己の印鑑を交付したことは、工藤勇に対し右保証契約を締結するについて代理権を授与したものとみることができる。しかしながら、工藤勇が前示のように控訴組合から金一〇〇万円を借受けるに際して右印鑑を使用し恰も竹次郎の代理人として控訴組合と連帯保証契約を締結したことは本来の前示代理権限をゆ越したものというべきである。ところが、本人より実印の交付をうけ、これを使用して権限ゆ越の代理行為がなされた場合、特段の事情が認められない本件においては、第三者たる控訴組合は勇に代理権があると信ずべき正当理由があるものと解するのが相当であるから(本件において、控訴組合が右連帯保証契約の締結に当つて、工藤勇の代理権限の有無の調査のためあらためて竹次郎に面談したり、あるいは問い合せるなどして確認措置を講じなかつたとしても、控訴組合に過失が存するものとは考えられない)、竹次郎は右勇の表見代理行為によつて連帯保証人としての責任を免れることはできない。したがつて、被控訴人蝦名サキ外六名は亡竹次郎の権利義務の承継人であるから、前示承継の割合に応じ、控訴人に対し、被控訴人蝦名サキは金三三万三、三三三円、被控訴人細川ゆきゑ、蝦名清信、佐々木ユリヱ、安倍チヱ、蝦名泰枝子、蝦名清光各一一万一、一一一円及びこれら各全員に対する昭和三九年六月二日より完済まで日歩五銭の割合による遅延損害金の支払義務があることが明らかである。以上の認定判断を覆えすに足りる証拠はない。

第三、むすび

以上の次第であるから、控訴人の本訴請求中、被控訴人蝦名サキ外六名(亡竹次郎の訴訟承継人)に対する請求は正当として認容し、その余の被控訴人本堂堅蔵、本堂徳松に対する各請求は失当として棄却すべきであるところ、原判決中、控訴人の被控訴人本堂堅蔵、本堂徳松に対する各請求を棄却した部分は相当であるが、被控訴人蝦名サキ外六名に対する請求を棄却した部分は不当であるから、主文のように取り消すこととし、控訴人の被控訴人本堂堅蔵、本堂徳松に対する控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三八六条、第三八四条、第九六条、第九五条、第八三条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

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